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緒言

 

 このホームページの作成を「しまくとぅば普及センター」にお願い致しましたところ、作成に2年以上かかるとのお返事を頂きました。一日でも早くウチナーンチュの方々に活用して頂くという本来の趣旨から、自費で制作することに致しました。「しまくとぅば普及センター様」にはたいへん御助力を頂きました。冒頭にて感謝申し上げます。

 

 この和琉辞典は、国立国語研究所編集、大蔵省印刷局発行の「沖縄語辞典」を全面的に参考にさせていただきました。また日本語との関連につきましては、小学館「日本国語大辞典」の初版を参考・引用させていただきました。冒頭で明記して、編集にかかわった皆様に深く感謝申し上げます。「沖縄語辞典」は、琉球語がすべてローマ字表記となっています。ローマ字で表記しますと、発音はきわめて正確ですが、意味がわかりにくいという欠点があります。カタカナ、あるいは、ひらがなで表記しても同じです。この和琉辞典では、意味をわかりやすくするために、琉球語をすべて漢字ひらがな混じりで表記しました。簡単に言ってしまえば、日本語と同じにしました。漢字は、きわめて便利です。意味がただちに理解できます。漢字に直せるものは、可能な限り漢字に直しました。残念ながら漢字に直せない言葉も相当数あります。これは日本語も同じことですのでしかたがありません。琉球語をすべて漢字かな交じりで表記した現代琉球語の辞典はこの和琉辞典が初めてだと思います。「沖縄語辞典」は、首里言葉を採用しています。現在の沖縄の方言は那覇言葉が主流だと思われますが、どの言葉を採用しても結局、ほかの言葉が漏れることになります。首里言葉の特色は、動詞の語尾が、「ゆん」で終わることです。一般的な沖縄方言は、「いん」で終わります。また、「むん」で終わる動詞が首里言葉では、「ぬん」で終わる場合があります。形容詞の語尾は、一般的には「さん」で終わりますが、首里言葉では、「しゃん」で終わる場合がしばしばです。「すん」でおわる動詞が「しゅん」になったりします。私自身、「しゃん」、「しゅん」に関しては最初、どうも舌足らずのような印象がありましたが、この辞典の編集を終えてみると、意外に上品な発音であると感じました。首里言葉の「つぃ」、「すぃ」は、一般的にはほとんど「ち」、「し」と発音されます。発音以外にも、首里のみで使われ、他の地域では使われていない言葉もかなりあるようです。この和琉辞典を読んでいると自分の方言とは違ったところが多いことに気が付くことでしょう。自分の方言との違いに気が付くということは、つまり、自分の方言を持っているということです。この辞典を使用することによって、自分自身の方言に気が付けば、それはとても意味深いことだと思います。どちらが正しいとか、どちらが普通とか、どちらが上品とか、そのようなことは、意味のないことだと思います。この辞典を使用することによって、琉球語に対しての関心が深まることを願っています。引く辞典である以上に、読む辞典であればと思っています。「沖縄語辞典」の編集はかなり古く、採用されている語も現在では、あまり使われない、ほとんど使われない、死語と呼べる、などの言葉がかなりあります。しかしながら、言葉はそれ自体が文化遺産です。目に見える文化遺産などは、昔のものであるとありがたがる反面、目に見えない文化遺産である言葉に対しては、古いと言って平気で忘れさろうとします。この辞典に載っているなんでもないような言葉を見て、ほんとうに懐かしさを感じる人は多いと思います。その言葉を使っていた時の景色・情景までもがよみがえってきます。琉球語は、過去の文化遺産であると同時に未来への文化遺産です。そしてまた、現在も生きています。

 

2018年5月18日